「お腹の脂肪を減らしたいけれど、手術がいいのか薬がいいのか分からない」
近年、GLP-1受容体作動薬を用いた医療ダイエットが広く知られるようになり、こうしたご相談をいただくことが増えました。
先に結論をお伝えすると、この2つは比べるものではありません。目的が違うためです。
GLP-1は体重を減らす方法です。脂肪吸引は体重を減らす方法ではなく、体の形を変える方法です。
この記事では、それぞれが何を変えるものなのかを整理したうえで、どちらが向いているのか、そして両方を検討する場合の順番についてご説明します。
この記事でわかること
✅ 脂肪吸引とGLP-1で、減るものがどう違うのか
✅ 内臓脂肪と皮下脂肪、それぞれに効くのはどちらか
✅ それぞれが向いている方
✅ 両方を検討する場合の順番
✅ GLP-1使用中に手術を受ける場合の休薬について
脂肪吸引とGLP-1は、何が違うのか
GLP-1は、全身の体重を減らす方法です
GLP-1受容体作動薬は、食欲を抑え、胃の内容物が排出される速度を遅らせることで、摂取カロリーを減らす方向に働きます。
その結果として体重が減り、全身の脂肪が減っていきます。内臓脂肪も皮下脂肪も、どちらも減少します。
一方で、どの部位から減るかを選ぶことはできません。落としたい場所だけを減らすことはできず、顔や胸から先に落ちるということも起こります。
脂肪吸引は、部分の形を変える方法です
脂肪吸引は、特定の部位の皮下脂肪を取り除く手術です。
減らす場所を選べること、そして残す層の厚みを調整することで形を作れることが特徴です。
一方で、体重はほとんど変わりません。脂肪は水より軽く、体積としてかなりの量を取り除いても、体重計の数字は大きく動きません。また、内臓脂肪は取り除けません。
▶ 腹部脂肪吸引でどれくらい細くなる?効果や変化の目安を医師が解説
比較のまとめ
| 脂肪吸引 | GLP-1受容体作動薬 | |
|---|---|---|
| 目的 | 部分の形を変える | 全身の体重を減らす |
| 減らせる脂肪 | 皮下脂肪のみ | 皮下脂肪・内臓脂肪の両方 |
| 部位の選択 | できる | できない |
| 体重の変化 | ほとんど変わらない | 減る |
| 効果の持続 | 脂肪細胞が減るため維持されやすい | 生活習慣によっては、中止後に戻ることがある |
| 手術 | 必要 | 不要 |
| ダウンタイム | あり | 手術に伴うものはない |
内臓脂肪か皮下脂肪かで、選ぶものが変わります
お腹が出て見える原因が皮下脂肪なのか内臓脂肪なのかによって、適した方法は変わります。
内臓脂肪が主体の場合
内臓脂肪は、腹筋より内側、内臓のまわりにつく脂肪です。つまむことができず、脂肪吸引では取り除けません。
この場合、脂肪吸引を行ってもお腹の張り出しは残ります。
内臓脂肪を減らすには、食事や運動を中心とした減量が基本となります。体重や合併症の状況によっては、医療機関での減量治療が選択肢となることもあります。
皮下脂肪が主体の場合
皮下脂肪は、皮膚のすぐ下につく脂肪です。指でつまむことができます。
体重は標準的なのに、つまめる皮下脂肪が部分的に残っている。この状態は、減量では変わりにくいものです。全身の体脂肪が減っても、その部位の分布は変わらないためです。
この場合には、脂肪吸引が選択肢となります。
両方が関わっている場合
実際には、どちらか一方だけということは多くありません。
当院では触診に加えて、エコー(超音波診断装置)で皮下脂肪と内臓脂肪の内訳を確認しています。体表から見た印象と、実際の皮下脂肪の厚みは一致しないことがあるためです。
▶ お腹だけ痩せない理由とは?内臓脂肪・皮下脂肪の違いと脂肪吸引が向いている人
それぞれが向いている方
GLP-1による減量が向いている場合
- 体重そのものを減らしたい
- 全身的に脂肪量が多い
- 内臓脂肪が主体である
- 手術を受けることに抵抗がある
- ダウンタイムを取ることが難しい
脂肪吸引が向いている場合
- 体重は標準的だが、特定の部位だけ気になる
- つまめる皮下脂肪がしっかりある
- 体重を落としても、その部分だけ変わらなかった
- 形やラインを整えたい
- 体重が安定している
脂肪吸引は、減量の手段ではありません
当院では、体重を減らすことを目的とした脂肪吸引は行っていません。
脂肪吸引は、体重が落ち着いた方の形を整える手術です。全身の脂肪量が多い状態で部分的に吸引しても、全体のバランスから変化を実感しにくくなります。
そのため、減量が必要な方には、まず減量に取り組んでいただくことをおすすめしています。
両方を検討する場合の順番
減量が先です
GLP-1と脂肪吸引の両方を検討されている場合、順番は減量が先になります。
理由は2つあります。
ひとつは、体重が動いている段階で脂肪を減らしても、仕上がりが安定しないためです。
もうひとつは、減量によって残る脂肪の量も分布も変わるためです。減量前に立てた計画が、減量後には合わなくなります。どこにどれだけ皮下脂肪が残るかを見てから範囲を決める方が、結果として無駄がありません。
体重が安定してから判断します
減量後、体重が落ち着いた段階で、あらためて診察を行います。
減量によって全体のバランスが変わると、気になっていた部分の見え方も変わります。その時点で脂肪吸引が必要かどうかを判断する方が、結果として満足度が高くなることがあります。
大幅な減量後は、皮膚の状態を確認します
短期間に大きく体重が減った場合、皮膚が伸びた状態のまま残っていることがあります。
この状態で脂肪を減らすと、皮膚の余りが目立つことがあります。減量後に脂肪吸引を検討される場合には、皮膚のハリや戻り方を確認したうえで判断しています。
▶ 腹部脂肪吸引で皮膚はたるむ?皮膚が余る原因と改善方法を医師が解説
GLP-1を使用中の方が手術を受ける場合
GLP-1受容体作動薬を使用中の方が脂肪吸引を受ける場合、術前の休薬が必要になります。
なぜ休薬が必要なのか
GLP-1受容体作動薬には、胃の内容物が排出される速度を遅らせる作用があります。
そのため、通常の絶食時間を守っていても、手術の時点で胃の中に内容物が残っている可能性があります。麻酔中に胃の内容物が逆流すると、誤嚥のリスクにつながります。
休薬の期間
当院では、静脈麻酔を伴う手術について、7日前からの休薬をお願いしています。
使用状況や体調によっては、休薬期間を延長する場合があります。休薬期間や再開時期は、使用している薬剤や手術内容によっても異なるため、詳しくは診察時にご案内します。
必ず申告してください
GLP-1受容体作動薬(マンジャロ、オゼンピック、ウゴービなど)やGIP/GLP-1受容体作動薬を使用中の方は、他院での処方を含め、必ずお申し出ください。
自己判断で使用を続けたまま手術に臨むことは、麻酔管理上の危険につながります。
腹部脂肪吸引をおすすめしない方
当院では、次のような場合に脂肪吸引をおすすめしていません。
- 体重を減らすことを目的とされている方
- お腹のふくらみの主な原因が内臓脂肪である方
- 全身の脂肪量が多く、部分的な吸引では変化を実感しにくい方
- 皮膚のたるみが主体の方
- 体重の増減が大きく、体型が安定していない方
- つまめる皮下脂肪が薄い方
- 妊娠中・授乳中の方
- 重篤な基礎疾患があり、手術が難しいと判断される方
BMIについて
当院ではBMIだけで判断することはしていません。皮下脂肪の量や内臓脂肪の割合、皮膚の状態、基礎疾患、麻酔管理上の安全性などを総合的に確認しています。
そのうえで、一つの目安として、BMI24未満を理想的な範囲、BMI30程度までを手術検討の目安としています。
適応がないと判断した方に、手術をおすすめすることはありません。
よくある質問
Q. GLP-1でお腹の脂肪は減りますか?
体重が減れば、お腹の脂肪も減ります。内臓脂肪、皮下脂肪のどちらも減少します。
ただし、どの部位から減るかを選ぶことはできません。お腹だけを狙って減らすことはできず、他の部位から先に落ちることもあります。
Q. 脂肪吸引をすれば体重は減りますか?
大きくは減りません。
脂肪は水より軽く、体積としてかなりの量を取り除いても、体重計の数字はあまり動きません。脂肪吸引が変えるのは、脂肪の分布と体の形です。
Q. GLP-1をやめたら戻りますか?
食欲を抑える作用による減量であるため、中止後に食事量が戻れば、体重も戻る可能性があります。
一方、脂肪吸引は脂肪細胞そのものを減らすため、体重が大きく増加しなければ変化は維持されやすいとされています。
Q. 両方受けることはできますか?
順番としては、減量が先になります。
体重が動いている段階で脂肪を減らしても仕上がりが安定しないこと、減量によって残る脂肪の分布が変わることが理由です。
Q. GLP-1を使いながら手術を受けられますか?
術前の休薬が必要です。
当院では、静脈麻酔を伴う手術について7日前からの休薬をお願いしています。マンジャロ、オゼンピック、ウゴービなどを使用中の方は、他院で処方を受けている場合も必ずお申し出ください。
休薬期間や再開時期は、使用している薬剤や体調、手術内容によって異なる場合があります。
Q. 痩せてからでないと脂肪吸引は受けられませんか?
体重を減らすことが目的の方や、全身の脂肪量が多い方には、まず減量をおすすめしています。
一方、体重は標準的でお腹だけが気になるという方は、これ以上体重を落としても変化が限られることが多いため、脂肪吸引が選択肢となります。どちらに当てはまるかは、診察でご説明しています。
Q. 大幅に痩せた後に脂肪吸引を受けても大丈夫ですか?
体重が安定していることが前提となります。
また、短期間に大きく減量された場合には、皮膚が伸びた状態で残っていることがあります。この状態で脂肪を減らすと、皮膚の余りが目立つことがあるため、皮膚の状態を確認したうえで判断しています。
Q. どちらが向いているか、診察で分かりますか?
触診とエコーで、皮下脂肪と内臓脂肪の内訳を確認できます。
そのうえで、脂肪吸引が適しているかどうかをご説明しています。適応がないと判断した場合には、その旨もお伝えしています。
まとめ
脂肪吸引とGLP-1受容体作動薬は、比べるものではありません。目的が違うためです。
GLP-1は全身の体重を減らす方法で、内臓脂肪も皮下脂肪も減ります。ただし、減る部位を選ぶことはできません。
脂肪吸引は部分の形を変える方法で、減らす場所を選べます。ただし、体重はほとんど変わらず、内臓脂肪は取り除けません。
そのため、お腹が出て見える原因が内臓脂肪であれば減量が必要になり、体重は標準的で部分的な皮下脂肪が残っているのであれば脂肪吸引が選択肢となります。
両方を検討される場合、順番は減量が先です。体重が動いている段階で脂肪を減らしても仕上がりが安定せず、減量によって残る脂肪の分布も変わるためです。
脂肪吸引は、減量の手段ではありません。体重が落ち着いた方の形を整える手術です。
▶ 腹部脂肪吸引完全ガイド|ダウンタイム・費用・傷跡・効果を医師が解説
どちらを選ぶか迷っている方へ
お腹が出て見える原因が皮下脂肪なのか内臓脂肪なのかによって、適した方法は変わります。
当院では、触診とエコーで皮下脂肪と内臓脂肪の内訳を確認したうえで、脂肪吸引で変えられる部分と、変えにくい部分をご説明しています。適応がないと判断した場合には、その旨もお伝えしています。
方法を決める前に、まず原因を確認する。それが遠回りに見えて、結果として近道になることが少なくありません。
お腹についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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穴井 元康
IANA CLINIC
院長
経歴
2015年 Centre Hospitalier Universitaire Grenoble Alpes(フランス)
2016年 Mackay Memorial Hospital(台湾)
2017年 産業医科大学医学部医学科 卒業
国立病院機構九州医療センター勤務
2019年 トヨタ自動車株式会社 専属産業医
2020年 東北大学病院、東北労災病院 整形外科勤務
2021年 都内整形外科クリニック院長
2023年 大手美容クリニック勤務
2025年 韓国 LaPrin Plastic Surgery Fellowship
2025年 IANA CLINIC開院
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