SSTとは——麻酔を入れる瞬間から、すでに仕上がりに差がついている

脂肪吸引の手術は、脂肪を吸引する瞬間から始まると思われがちです。しかし実際には、その前の段階——麻酔液を組織に浸透させる、ほんの数分間——で、すでに仕上がりに差がついています。この段階に光を当てたのが、SST(Simultaneous Separation and Tumescence)という技術です。

正直にお伝えすると、日本国内でこの技術を正面から実践しているクリニックは、私が把握している限り、ほとんど見当たりません。今回は、この技術がなぜ生まれ、なぜ当院がすでにこれを取り入れているのかを、お伝えします。

この記事でわかること
・SST(麻酔液の注入と組織の分離を同時に行う技術)の仕組み
・この技術を発表した医師と、SAFE Lipoとの血統関係
・血管収縮効果に関する研究データ
・当院が、この技術をすでに実践してきた経緯
・SAFE Lipo・MicroAire・SSTが、どうつながっているか

目次

SSTとは何か

SSTは、Simultaneous Separation and Tumescence(同時分離・浸潤)の略です。従来、脂肪吸引の前処置として行われてきたのは、Klein法と呼ばれる方法でした。細い針でチュメセント液(麻酔と血管収縮の効果を持つ薬液)をゆっくりと組織に注入し、その後20分ほど待って、血管が十分に収縮するのを待つ、という手順です。

SSTは、この「注入」と「組織の分離」を、同時に行う技術です。太い専用のカニューレを使い、振動を与えながらチュメセント液を注入することで、薬液を浸透させると同時に、脂肪を周囲の組織からあらかじめ緩めておくことができます。

この技術を生んだのは、SAFE Lipoの提唱者その人

SSTが学術的に発表されたのは、2022年、Aesthetic Surgery Journal誌でのことです。この論文の著者には、Daniel Del Vecchio医師と並んで、SAFE Lipoを確立したSimeon Wall Jr.医師本人の名前があります。

つまりSSTは、まったく別の技術ではなく、SAFE Lipoという思想を提唱した本人が、その延長線上でさらに発展させた技術だということです。論文では、この手法が6年以上、1200例を超える症例で実践されてきたことも報告されています。

血管収縮、約2倍という差

この論文で示された最も重要なデータが、血管収縮効果の比較です。SSTを用いた場合の血管収縮率は89.6%、従来のKlein法では48.1%と報告されており、統計的にも明確な差があったとされています。

この論文に対して、他の専門医からの査読コメントも同じ号に掲載されており、そこでも「SSTでは血管収縮がより速く、より効果的に起きることを、自分自身の臨床でも確認した」という独立した見解が示されています。血管がしっかり収縮するということは、手術中の出血が抑えられるということです。出血が少なければ、術野がクリアに保たれ、より精密な操作につながります。

当院は、すでにこれを実践しています

当院では、麻酔液(チュメセント)を組織に浸透させる、手術の一番最初の段階から、MicroAireと特注のカニューレを組み合わせて使用しています。組織を優しく剥離しながら、麻酔液を速く、かつ均一に浸透させ、麻酔が最も効いているタイミングで組織の分離・吸引に移る——この手法は、まさにSSTそのものです。

一般的に、パワーアシスト式の機材は「脂肪を吸引するときだけ」使うものと考えられています。当院がこの常識にとどまらず、麻酔液を撒く最初の段階からこの発想を取り入れてきたのは、偶然ではありません。組織への配慮を突き詰めていった結果として、学術的に発表されるより前から、実質的に同じ発想にたどり着いていたということです。

日本国内でこの技術を体系的に取り入れているクリニックは、私の知る限り、ほとんどありません。理由は単純で、特殊な機材と専用のカニューレ、そしてそれを使いこなす技術が必要だからです。表面的な知識だけでは実践できない技術のひとつだと考えています。

SAFE Lipo・MicroAire・SST、三位一体の設計

ここまでお読みいただくと、当院がこれまでお伝えしてきた3つの技術——SAFE Lipo、MicroAire、SST——が、それぞれ独立したものではなく、ひとつの思想でつながっていることがお分かりいただけると思います。

・SAFE Lipo:脂肪を分離し、吸引し、残った層を均一に整えるという、手術全体の設計思想

・MicroAire:その思想を実現するための、微細な振動を可能にする道具

・SST:その道具を使って、麻酔を入れる最初の一歩から、すでに仕上がりを左右する準備を行う手法

思想と道具と手順。この3つが揃って初めて、当院が目指す「取りすぎず、均一に残す」脂肪吸引が成立します。どれかひとつだけを取り入れても、同じ結果にはなりません。

すべてが万能というわけではありません

SSTについても、慎重であるべき点はあります。太いカニューレを使う手法のため、従来の細い針を使う方法との単純な比較には、注意が必要だという指摘も専門医の間ではあります。また、血管収縮の効果が高いことと、すべての症例で出血が完全にゼロになることとは、別の話です。

当院では、こうした技術的な特性を理解した上で、症例ごとの脂肪量や部位に応じて、適した方法を選択しています。

まとめ

・SSTは、麻酔液の注入と組織の分離を同時に行う技術で、2022年にAesthetic Surgery Journal誌で発表された

・発表した著者には、SAFE Lipoを確立したSimeon Wall Jr.医師本人が名を連ねている

・血管収縮効果は、従来のKlein法(48.1%)に対し、SSTでは89.6%と、約2倍近い差が報告されている

・当院では、この技術が学術的に発表されるより前から、MicroAireと特注カニューレを組み合わせた同様の手法を実践してきた

・日本国内でこの技術を体系的に取り入れているクリニックは、極めて限られている

・SAFE Lipo(思想)・MicroAire(道具)・SST(手順)の3つが揃って、初めて当院が目指す仕上がりが実現する

脂肪吸引の質は、脂肪を吸引する瞬間だけで決まるものではありません。麻酔を入れる最初の一歩から、当院はすでに違うやり方をしています。仕上がりのイメージや、ご自身に適した施術について気になる方は、お気軽にご相談ください。

参考文献

・Del Vecchio D, Wall SH Jr, Stein MJ, Jovic TH, Whitaker IS. Simultaneous Separation and Tumescence: A New Paradigm for Liposuction Donor Site Preparation. Aesthetic Surgery Journal. 2022;42(12):1427-1432. https://academic.oup.com/asj/article/42/12/1427/6606018

・Commentary on: Simultaneous Separation and Tumescence: A New Paradigm for Liposuction Donor Site Preparation. Aesthetic Surgery Journal. 2022;42(12):1433. https://academic.oup.com/asj/article/42/12/1433/6675133

・SAFELipo Technology(技術解説) https://www.safelipo.com/technique/

監修医師
IANA CLINIC院長 穴井元康

穴井 元康

IANA CLINIC
院長


経歴

2015年 Centre Hospitalier Universitaire Grenoble Alpes(フランス)

2016年 Mackay Memorial Hospital(台湾)

2017年 産業医科大学医学部医学科 卒業
    国立病院機構九州医療センター勤務

2019年 トヨタ自動車株式会社 専属産業医

2020年 東北大学病院、東北労災病院 整形外科勤務

2021年 都内整形外科クリニック院長

2023年 大手美容クリニック勤務

2025年 韓国 LaPrin Plastic Surgery Fellowship

2025年 IANA CLINIC開院

患者様一人ひとりのお悩みやご希望に丁寧に向き合い、

自然な仕上がりを重視した美容医療の提供に努めています。